アメリカの日本からの自動車の輸入関税率が15%になるが、輸入台数はどういった要因の影響を受けるのか、少しみてみた。
機械学習による予測方法には大きく分けて、時系列的に予測する方法と回帰的に予測する方法があるが、どういった要素に影響をうけるのかを中心に見てみたかったので、まずは、多変数の一般化線形モデルでやってみた。
アメリカの日本からの輸入台数に関係しそうな要素としては、多数あると思われるが、簡易的にやってみるために、マクロ的な要素として、関税率、失業率(%)、為替(円/ドル)、CPI、 アメリカGDP、アメリカガソリン価格(ドル/ガロン)としてみた。また、自動車産業的な要素として、アメリカ国内自動車販売台数(台)年間換算、 カナダからの自動車輸入台数(台)、メキシコからの自動車輸入台数(台)、アメリカ国内自動車生産台数(台)、アメリカ国内在庫(台)とし、これら11の要素を基に、アメリカの日本からの自動車輸入台数のモデル化を試みた。
一般線形モデルとランダムフォレストとの評価は以下の通りで、他のモデルと比較しても、一番モデル評価が良かったのはランダムフォレストで、平均絶対値誤差(MAE)は6,881、二乗平均平方根誤差(RMSE) として9,669、決定係数(R2)は0.89と良いフィットという結果となっている。


ランダムフォレストのモデルで、実輸入台数と予測台数をプロットしてみると以下のようによくフィットしている。少し過学習的とも思えるので、さらなる精査が必要であるが、一旦、これで考えてみる。
実輸入台数と予測台数とのフィット状況

このモデルの結果として、11ある要素の中で影響力の強い順番として、関税率(Tax rate)、カナダからの輸入台数(Canada_QTY)、アメリカ国内在庫数(Inventory)、ガソリン価格(gas price)という結果であった。関税率はともかく、もっとメキシコからの輸入台数やアメリカ国内販売台数の影響が大きいかと思っていたので、意外であった。
ランダムフォレストモデルでの11要素の重要度順序

このモデルを基に、関税率が10%、15%、20%、25%の時の輸入予測台数を出してみると、以下となった。予測条件として、関税率以外は、2025年1月~7月の平均値を共通値として使った。
- 10%: 151,991台
- 15%: 150,491台
- 20%: 146,973台
- 25%: 146,973 台
結果をみると、10%~20%までは関税率が上がるにつれて輸入台数は減少するとの予測であるが、20%を超えると横ばいになるとの予測。これらはあくまで推定なので、ひとつの参考として考えてください。これらを基に8月以降の実輸入台数と比べていきたい。
関税率と輸入予測台数の関係

次に、時系列予測として、いろいろなモデルを試したが、一番現実的と思われるのは、ARIMA(自己回帰和分移動平均)モデルで、予測台数は以下のとおり。
- 2025年8月: 152,621台
- 2025年9月: 159,342台
- 2025年10月: 140,236台
- 2025年11月: 140,770台
- 2025年12月: 151,619台
ただ、95%信頼区間幅は、10~15万台と非常に大きく、あくまで一つの予測として考えたい。
時系列モデル(ARIMA)による2025年8月から12月のアメリカの日本からの自動車輸入台数予測(台)

さらに、SEM(構造分析)で様々な組み合わせでやってみたところ、以下のような、カナダからの輸入、アメリカ国内販売(GDP、ガソリン価格、失業率の影響をうけた変数)、関税率がアメリカの日本からの自動車輸入台数に影響を与えているというモデルが精度的に使える範囲になりそう。

結果としては、以下のように、カナダからの輸入とアメリカ国内販売が増加すると、輸入台数も増加、関税率が高くなると輸入台数は減少と、それらしいモデルとなった(ただし、失業率が増加すると国内販売が増加するとの予測で、これは直観に反するので精査の余地あり)。

評価指数

0.9を超えていると精度的には実用的と言われるCFI、NFI、TLIは、全て0.9を超えているので、許容範囲と判断できる。
実データと予測データの散布図(点線に近いほど制度が良い)

実データと予測データの比較をした下図をみると、大きな傾向としては合致しており、ちょうど移動平均のような予測となっている。また、2025年当初の駆け込み輸入は予測できておらず、異常値的になっているが、これは正しい判断と思える。

このモデルを基に、関税率が15%の時の輸入台数を予測すると、170,218台(他の変数は平均値とした)となり、ランダムフォレストの約15万台と約2万台の差がある。2025年の輸入単価平均は約2万ドル/台なので、1万台予測がずれると、輸入額は2億ドルずれる。2万台だと4億ドルの差があり、実用上許容できる差ではないので、やはり予測モデルは簡単ではない。
その他の試行として、2021年1月~2024年12月までのアメリカの日本からの輸入台数を事前分布、2025年1月~7月の輸入台数を観測データ(尤度)としてみると、対数正規分布として近似でき、これを基にベイズ推定すると、以下のようになった。2024年12月までの関税が低い時の輸入台数を基礎としているために、関税後の台数で、分布は若干左(減少)する方向にずれたが、実輸入数とは大きく離れていることや、バラつき(標準偏差)も大きいことから、参考データとしたい。ただ、興味深い分析として、13万台以下の輸入台数になり確率は、事前分布で約0.45%とトランプ関税前の分布では、ほぼあり得ない確率となっている。事後分布ではそれが約1.19%と約3倍に増加していることから、関税の影響がやはり大きいことが分かる。
ベイズ推定での推定結果(大数正規分布の基本統計量)


いずれにせよ、2025年前半は、駆け込み輸入で、予測を大きく超える輸入台数になったが、今回関税率が固まったことで、どういった反応になっていくのか、他の要素も見ながら、これらのモデルも更新していきたい。
(データ:ITC、FRED)
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